福岡地方裁判所小倉支部 平成10年(ワ)59号 判決 1999年11月02日
原告
甲野八千馬
外三名
右四名訴訟代理人弁護士
横光幸雄
被告
医療法人碧水会
右代表者理事長
西内久美子
右訴訟代理人弁護士
岡田基志
右訴訟復代理人弁護士
角南雅德
主文
一 被告は、各原告に対し、それぞれ金一五二万五〇〇〇円及びこれに対する平成九年三月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は、これを二分し、その一を原告らの、その余を被告の負担とする。
四 この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。
第一 請求
一 被告は、各原告に対し、それぞれ金三五〇万円及びこれに対する平成九年三月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
三 仮執行宣言
第二 事案の概要
本件は、甲野太郎(以下「太郎」という。)が、被告が経営する精神病院に入院中に自殺してしまったのは、右精神病院の職員等が太郎の自殺を防止する措置をとるべきであったにもかかわらず、それを怠った診療契約上の義務違反によるものであるとして、太郎の相続人である原告四名が、被告に対し、債務不履行による損害賠償を求めた事案である。
一 争いのない事実等
1 被告は、精神病院である門司田野浦病院(以下、「田野浦病院」という。)を開設経営している医療法人である。
2 太郎は、平成八年一〇月三日、アルコール依存症、精神分裂病、肝障害等の治療のため、被告との間で、診療契約を締結し、同日、田野浦病院に入院した。
3 太郎は、平成九年三月一二日午前一時ころ、病室において、窓の格子にシャツを通して首を吊り、死亡した(甲一、一八)。
4 田野浦病院においては、入院患者の日常の看護や介護については、看護婦・看護助手が当たっているところ、病棟の定時の巡回は、午前五時から午後一一時までは、一時間の間隔で行われていたが、右時間帯以外は、行われていなかった。
5 原告らは、太郎の兄弟姉妹であり、各四分の一の相続分で太郎を相続した(甲一二の一ないし四)。
二 原告の主張
1 被告には、入院中の患者の生命・身体の安全を確保し、とくに、自殺の可能性のある患者に対しては、これを防止すべき義務があるところ、被告が自殺防止の措置を採らなかったため、太郎は死亡するに至ったものであって、被告には右診療契約上の債務を履行しなかった責任がある。
2 そして、太郎には、平成九年二月二五日以降、抑うつ状態がみられるなど、本件自殺の前に自殺の兆候がみられたにもかかわらず、被告の職員で太郎の主治医である三木好満医師及び看護職員らはこれを看過し、太郎の自殺の結果を予見できたにもかかわらず、これを予見せず、また、田野浦病院においては、午後一一時から午前五時までの巡回を行っていなかったものであるが、少なくとも、夜間においても一時間毎の定時の巡回を行うなどの自殺防止措置をとっておれば、太郎が自殺に及び、死に至ることは回避できたといえるところ、これをしなかったものであって、前記1記載の債務不履行につき、被告には責に帰すべき事由がある。
3 損害
(一) 逸失利益
太郎は死亡時五二歳であり、最低でも日額五二〇〇円の収入を得べきものであるところ、生活費控除五〇パーセント、六七歳まで就労可能とした場合の新ホフマン係数10.981を乗ずると、同人の逸失利益は一〇四二万九六九円となる。
5200円×365日×0.5×10.981=1042万0969円
(二) 死亡慰謝料
太郎は、安全適切な看護治療を求め、田野浦病院に入院したにもかかわらず、被告がこれを尽くさなかったために死に至ったものであり、太郎の死亡慰謝料は、一五〇〇万円が相当である。
(三) 葬儀費用
太郎の葬儀費用は、通常支出を要する一〇〇万円が相当である。
(四) 弁護士費用 二〇〇万円
以上、合計二八四二万〇九六九円の内金一四〇〇万円を請求する。
三 被告の主張
1 太郎に自殺の兆候はみられず、本件自殺は突発的なものであり、三木好満医師は、太郎の自殺を予見することはできなかった。
また、被告の人的看護体制には、不備はない。巡回監視について、日中と就寝までは、適宜実施しており、午後一一時以降午前五時までの間にこれを行っていなかったのは、患者の睡眠を妨げるおそれがあるし、患者の治療への悪影響も懸念されるなどの理由に基づくものである。
以上のとおり、太郎の自殺に関し、被告には何らその責に帰すべき事由は存在しない。
2 仮に被告に過失があったとしても、逸失利益については、太郎は入院当時生活保護を受給しており、就業状態も不明であるので、逸失利益の存在は認められず、他の損害についても争う。
3 また、太郎は、自ら命を絶ったのであるから、損害額の算定にあたっては、これを被害者の過失として斟酌すべきである。
四 争点
1 診療契約上の債務不履行について、被告に責に帰すべき事由が認められるか。
(一) 太郎の自殺は、予見可能であったか。
(二) 夜間の巡回体制を整えること等によって、太郎の自殺は回避可能であったといえるか。
2 損害
3 過失相殺
第三 当裁判所の判断
一 争点1(一)について
精神病院に入院中の精神障害者は、その精神症状等から自傷他害の危険性を否定できないのであって、病院、医師、看護職員等は、精神障害者が自傷他害行為に及ばないよう、患者の動静に注意し、事故が発生しないよう配慮すべき義務があるというべきである。
そして、これを尽くさなかったことにつき、被告の責に帰すべき事由があるか否か、まず、被告に太郎の自殺の予見可能性がなかったか否かを検討するに、証拠(甲一六、一七)によれば、精神分裂病にあっては、急性期症状の消退後、緩解過程において、患者が空虚感や絶望感を抱き、しばしば自殺念慮を持つことがあることが認められ、証人三木好満も、精神分裂病にあっては、突発型の自殺が多いが、沈み込んだときに自殺に及びやすく、死の結果が確実な態様での自殺の方法を選択しがちであることなどを証言しているので、太郎の言動等について右のような状況が認められたか否かを検討する。
1 証拠(証人三木好満、同辻田みゆきの各証言、甲二、五ないし八の各一、二、乙一、一三ないし一六、二二ないし二九、三六)によれば、以下の事実を認めることができる。
(一) 太郎の入院当初の問題点として、(1)急に精神状態が不安定になること、(2)そのために包丁をふりかざしたりして危険であることなどが指摘されていること
(二) 平成八年一〇月四日の看護日誌には、太郎が「死にたい。」などと言っていたこと、同月九日の看護日誌には、太郎が「ここから出られなければ、自殺します。演技じゃありません。本当にします。」などと言っていたこと、同月九日の診療メモは、太郎が「返してくれんやったら、ここで死んでやるがいいか。」などと言っていたことが、それぞれ記載されていること
(三) 太郎は、入院当初は精神運動興奮(不穏状態)がみられたので拘束されていたこと、退院を強く要求して興奮するので、同月七日には格子付きの一人部屋である隔離室に入れられたこと、そして同月一一日には症状が軽快したため隔離室から閉鎖病棟に移されたこと、しかし、翌一二日には、今度は大声で奇声を発し、徘徊著明といった症状が出現し、他の患者とのトラブルのおそれがみられたため同年一一月五日までの間隔離室に収容されたこと、同年一一月五日には症状が軽快したため閉鎖病棟に移されたこと、また、平成八年一一月一四日から同年一二月五日までの間は、非常に強い不穏状態がみられたため頻繁に鎮静効果のある向精神薬であるハロペリドールを連日のように注射しなければならない状況にあったこと、平成九年二月六日から同月二五日までは、急性精神運動興奮のため隔離室に入室したこと
(四) その後、太郎は、同月二六日ころからは、精神運動興奮の症状は軽快したとの判断の下、閉鎖病棟の六人部屋に一人で入れられていたものの、従来は、さまざまな訴えが多かったのが、その後自殺に至るまでの期間、連日、表情が硬く暗く、問いかけにも反応せず、訴えもない状況に陥っていたこと
(五) 太郎の名前は、平成九年二月一日から五日までの病棟日誌には、要注意者欄に、隔離室から戻った同月二五日から翌三月六日までの病棟日誌には、自殺企図者欄に、同月七日から一一日までの病棟日誌には、要注意者欄にそれぞれ記載されていたこと
2 以上の事実によれば、太郎は、自己の病気について病識がなく、太郎の症状は一進一退を繰り返し、隔離室と閉鎖病棟の間を行ったり来たりしており、改善に向かっているとはいえないこと、平成九年二月一日から太郎が自殺に及んだ同年三月一二日まで、被告としても太郎を自殺企図者または要注意者であると認識していたことがうかがえる。そうすると、三木好満医師及び田野浦病院の看護婦らにおいて、太郎が自殺に及ぶ危険性があることを事前に予見することは可能であったと認めるのが相当である。
二 争点1(二)について
1 証拠(証人三木好満、同五輪西男、同辻田みゆき、同中井サカエの各証言、甲一、四、乙二二、二九)によれば、以下の事実が認められる。
(一) 平成九年三月一一日午後九時、または、同日午後一一時ころ、同日最後の巡回が行われたものの、その際、病室にいる太郎に何ら異常はみられなかったこと
(二) 太郎の自殺は、太郎の隣室に入院していた患者が廊下を通った際、見つけたものであって、被告の職員は、同月一二日午前四時五五分ころ、右患者の連絡を受け、初めて太郎の自殺の事実を把握したこと
(三) 太郎は窓の格子の上にシャツを通して首を吊ったものであり、足は床に少しつけた状態であったこと
(四) 被告の職員が確認した際には、太郎には体温の温もりがかすかにあったこと
2 そして、右事実と前記「争いのない事実等」記載の事実を総合考慮すれば、被告の経営する田野浦病院においては、巡回は、午後一一時から翌朝五時まで、六時間もの間行われないこととなっており、本件当日も、その間に巡回は行われていなかったこと、太郎が自殺に及んだのは、同月一二日の午前一時ころであって、同月一一日の午後最後の巡回が行われた後であるうえ、被告の職員らが太郎の死亡を知ったのは、太郎死亡後四時間近くも経過した後であったものの、廊下からでも首を吊った太郎の発見は容易であり、早期に救命措置を施せば、救命が可能であった蓋然性が十分あったということができる。
3 そして、患者の生命・身体に対する安全を確保することは、患者の治療を行うための前提であるといえるところ、通常、夜間においては、病院関係者及び他の患者の目がなくなるために、日中に比し、自傷他害のおそれのある入院患者が、現実に自傷他害行為に及ぶ可能性が高くなることは否定できないところであって、精神病院においては、夜間において、患者の異変等を早期に発見し、患者の生命・身体に対する安全を確保するための措置が必要であり、夜間一時間毎程度の巡回がなされていれば、通常、患者にとって、自傷他害行為に及ぶことに対する心理的抑制になるうえ、自傷他害行為に及ぶ準備行為等をしている段階で発見して、未然に防ぐことができるといえること、また、自傷他害行為に及んだ後、できるだけ早い時期に発見して、救命の措置等をとることができた可能性が高いといえるところ、本件においても、前記1、2記載の認定事実に照らせば、被告の職員が夜間一時間程度の巡回がなされていれば、太郎の死亡という結果は回避することが可能であったということができる。
4 この点、被告は、夜間の巡回監視は、患者の睡眠を妨げてしまうし、自殺企図の差し迫ったおそれの感じられない患者については、とくに開放化医療の最終目的を優先させ、治療に向けて、合目的的な看護の体制を採用することも合理的な裁量として許されるものと主張するので、この点について検討する。
(一) 証拠(甲一九ないし二四)によれば、北九州市内の六つの精神病院に照会したところ、いずれも、病棟によって夜勤に当たる人数等に差異はあっても、隔離室病棟、開放病棟、閉鎖病棟等の病棟の種類を問わず、夜間でも最低一時間に一度の巡回をしていることが認められる。
また、右証拠によれば、各病院において、夜間の巡回体制について、具体的には、以下のような意見を記載していることが明らかである。
(1) 医療法人日明会日明病院においては、夜間の巡回は一時間に一度、定時に行っているが、患者によっては、看護婦の巡回時間を察知してしまって、自傷他害の危険のある時間が生じることとなるので、自殺企図、自殺念慮、自殺思考のある患者が入院しているときは、定時巡回に加え、随時巡回していること
また、定時巡回をせず、随時巡回のみを行うこととすると、患者が巡回時間を察知することにより自傷他害に及ぶ危険性は、少なくなると考えられるが、巡回時間の配分にずれが生じ、観察が手薄になる場合が生じることがあるため巡回による密なる観察ができなくなり、自殺に及ぶ危険性を生じさせることになるので、随時巡回は、定時巡回と併用すべきである旨考えていること
(2) 医療法人緑風会八幡大蔵病院においては、夜間は一時間に一回以上巡回していること、また、自殺等問題行動は、巡回後をねらって行われることが多いため、定時巡回は、多少時間をずらして行っていること
(3) 医療法人小倉浦生病院においては、夜間の巡回については、巡回の時間が一定であると、その間の事故の発生頻度が上がる危険があるため、一時間おきの巡回も一〇ないし二〇分程度の幅をもたせて行っていること
また、一度巡回して再びすぐに戻ってみると、横になっていた患者が起きあがっていたりすることもあるので、定時の巡回と随時の巡回を組合わせて行うのが有効であると考えていること
(4) 医療法人三憲会折尾病院においては、いずれの病棟においても、異常のないときは一時間毎に、また、患者の状況に応じ、一五分、または、三〇分で巡回していること
また、夜間の巡回については、一応定時に決めておき、患者の病状により随時に巡回を行うのが有効であると考えていること
(5) 医療法人社団翠会八幡厚生病院においては、一時間毎の定時の巡回を行っているところ、随時の巡回のみとなると、いつ行うのか夜勤の職員の判断に任されてしまうことになるので、定時の巡回を基本として、その中に随時巡回を組み入れていくのが妥当であると考えていること
(6) 医療法人社団天臣会においては、最低一時間に一回巡回し、また、巡回の順番を変えるなどの工夫をしており、患者の状況によっては、巡回の頻度を変えていること
以上の事実からは、北九州市内の精神医療の現場において一時間に一回程度の巡回は、入院患者の自傷他害行為に及ぶ危険性を回避するため、必要最低限の措置として、実施されているものであって、また、自殺企図の強い患者等については、これに加えて巡回を行われているということができる。
(二) 他方、田野浦病院の看護体制については、前記1記載の認定事実のほか、証拠(証人中井サカエ、同五輪西男の各証言)によれば、以下の事実が認められる。
(1) 当直看護補助職員は、深夜零時から、午前四時三〇分までは、仮眠をとっており、午後一一時から午前五時までは、とくに患者から訴えがあったときのみ、当直看護婦が病棟の患者のもとへ行っていたこと
(2) 巡回日誌は存在しなかったこと
(3) 入院患者一般のみならず、自殺企図者、要注意者としてあげられた患者に対しても、夜間の巡回は行われていなかったこと
(三) そして、確かに、精神障害者に対する治療は、その究極的な目的が患者の社会復帰を促進することにあることからすれば、監視の下で行うだけでは足りず、入院患者をなるべく社会と同じ環境において治療する必要があることは、一般に認められるところであり、また、どのような病状の段階でどの程度の開放的治療を行うかの決定は、医師が、その当時の医療水準上要求される医学的知識に基づき、かつ、当該患者の病状の変化の的確な観察に即して、治療効果と自傷他害の危険とを考慮しつつ、判断すべきであり、医師の裁量的判断に委ねられる範囲は広いといわざるを得ない。
しかし、右のような医師の治療等とは異なり、精神病院における看護体制については、自傷他害の危険性が認められる患者について、開放化医療の精神に反しない限りにおいて、異変がないかどうか等その動静に注意して、入院患者が自傷他害行為に及ぶことを未然に防ぎ、または、自傷他害行為があった場合には、すぐさま治療救命等の措置を採りうるよう、通常、精神病院が最低限具備すべき看護体制等を備えていなければならないことは、治療の前提条件として不可欠であるといえるのであって、裁量的判断に委ねられる範囲は、医師の治療のそれよりも狭いものであると解するのが相当である。
そして、夜間における巡回監視は、これを行うことによって患者の睡眠を妨げてしまうおそれは確かに否定できないものの、それ以上に、精神医療における患者の治療を妨げてしまうおそれが大きいとまでは言い難く、仮に患者から睡眠が妨げられるという苦情があったとしても、前記のように、夜間においては、患者が自傷他害行為に及ぶことを防止する必要性が高いといえるうえ、また、一時間毎程度の巡回監視であれば、監視カメラの設置等の方法に比し、精神医療の治療効果を妨げるおそれは低いといえる。
したがって、夜間においても一時間毎程度の定時の巡回を行うことは、患者の異変等を早期に発見し、患者の生命・身体に対する安全を確保するために、精神病院において、必要最低限の措置であるといわざるをえない。
(四) そうすると、田野浦病院における、夜間、患者の身体の安全を確保するための措置は、北九州市内の代表的な精神病院に比し、極めてずさんであったといわざるを得ないのであって、被告に太郎の自殺に関して、責に帰すべき事由はなかったということはできない。
三 争点2について
1 逸失利益について
証拠(原告甲野八千馬の供述、甲一二)によれば、太郎は、死亡時五三歳であったこと、死亡する四、五年前から生活保護を受けていたこと、その間、太郎は、雇用先がなかったため、仕事をしていなかったこと、生活保護を受ける前は、職を転々としていたこと、酒を毎日大量に飲み、アルコール中毒で田野浦病院及び他の精神病院に合計二回入院したこと等の事実が認められる。
したがって、太郎は、もはや就労意欲を失っていたというべきであって、就労することが可能であったと認めるに足りる証拠はないから、逸失利益の主張は認め難い。
2 慰謝料について
太郎が適切な看護治療を求めて入院したにもかかわらず、看護体制の不備によって、自殺行為に及び死に至ってしまったことについての慰謝料は、前記認定のとおりの太郎の病状、被告の義務違反の態様・程度や証拠(原告甲野八千馬の供述、甲五ないし八の各一、二、弁論の全趣旨)によって認められる原告らと太郎の交流状況等その他諸般の事情を総合し、一〇〇〇万円が相当である。
3 葬儀費用
被告の過失と相当因果関係がある葬儀費用の損害額は一〇〇万円と認めるのが相当である。
四 過失相殺
本件損害発生においては、太郎が自ら命を絶っていることが原因となっていることは明らかであるので、損害の公平な分担の見地から、民法四一八条所定の過失相殺の法理を類推適用するのが相当であり、被告の賠償すべき損害額を減額するのが相当であるといえるところ、右死亡の原因に、前記認定にかかる被告の義務違反の態様・程度などを総合考慮すれば、太郎の死亡による損害については、その五割を減額するのが相当である。
そこで、太郎の前記認定にかかる本件損害金合計一一〇〇万円について、右過失割合で減額すると、五五〇万円となり、原告らはそれを各四分の一ずつ相続したから、各原告が被告に対して請求しうる額は、それぞれ一三七万五〇〇〇円となる。
五 弁護士費用
本件事故の内容、審理経過、認容額等に照らすと、各原告が被告に対して賠償を求めうる弁護士費用の額は、それぞれ一五万円と認めるのが相当である。
六 結論
以上のとおりであるから、原告らの本訴請求は、各原告が被告に対し、それぞれ一五二万五〇〇〇円及びこれに対する平成九年三月一二日から支払済みまで、年五分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるから、これを認容し、その余の請求についてはいずれも失当であるから、これを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六一条、六四条、六五条を、仮執行の宣言につき同法二五九条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官・有満俊昭、裁判官・金光秀明、裁判官・宮武芳)